Back to the Future で Back to the Past

 1985年。1980年代ってハリウッド全盛期だったのではないだろうか。日本では12月頭に続々とハリウッド新作のロードショーが始まった。この年はバック・トゥ・ザ・フューチャーが目玉。その前年はグレムリンとゴースト・バスターズ。

 その頃は今よりずっと娯楽が少なかったので、新作映画のチェックは怠らず前売り券を手に入れては週末のオールナイト上映に足を運んだ。ケチで貧乏な学生だったので、1枚の前売り券で何回も見なければ勿体ないと思っていたのだ。
 土曜日の夜、アルバイトを終えた頃に友人と喫茶店で待ち合わせ、オールナイトで3回繰り返して同じ映画を見る。2本立ての時は通して2回。夜明け前の街を下宿に向かって自転車で30分ほど走り、途中、午前5時の国道沿いのラーメン屋でトラックの運転手さんたちに混ざってラーメンを食べ、夕方西の空に沈んだところを確認したばかりのベガが既に北東の空低く輝いているのを感動して眺め、寒々とした下宿に戻って昼まで眠った。

 バック・トゥ・ザ・フューチャーはそんな当時のいつものパターンで見た最後の映画だった。


 映画は見事だった。心に一つのしこりも残すことなく、軽快に快活に幕を下ろした。30年前の世界へ行った主人公が両親の出会いを邪魔してしまい、自分が消えないように奮闘する。SFではありがちな珍しくもないストーリーなのに、そんなことは問題ではなかったし気になりもしなかった。その夜にすっかり満足してしまったから、それから26年、もう一度見ようなどとは思わなかった。続編が出たときも見る必要はないと無視をした。この映画の素晴らしかった印象を台無しにする可能性を作りたくなかったのだ。


 きっかけがあって、そんな思い出のバック・トゥ・ザ・フューチャーを26年振りに見た。素晴らしかったという感想以外、覚えていたことはほとんどなかったが、26年前と同じように素晴らしい映画だと思えた。
 テンポが良く古さを全く感じさせられない。話に無理があってもそんなのどうでも良い感じ。エンターティメントとして完成された名作だと思った。エンターティメントとしての完成度は私の中でスティングに並ぶ。即ち最高級ってこと。


 面白かったのは、30年前の世界へ行く映画を26年経って見た私は、26年前をつい先日のことのように思い出したこと。
 映画の冒頭ではトヨタのニュースが流れ,シチズンセイコー、ビクターなど Made in Japan の製品が映画のそこかしこに満ちあふれ、レーガン大統領が舵をとるアメリカの敵はリビア。そんな時代だった。日本はバブルを迎える直前の我慢の時代を過ごしていたが、物は豊かで日本製品に誇りを持ち始めていた。あの頃の私には現代だった1985年。しかしその時代は、今の私にはひどく牧歌的な昔に見えた。確かに1955年と比べれば格段に色々進歩しているが、それでも1985年と1955年、2012年から見ると大して違わないではないか? 1985年のロックは今ではオールディーズに聞こえてしまう。1958年の名曲が2012年になっても色褪せていないのはチャック・ベリーだからだろう。


 時代は加速度的に慌ただしくなってゆく。情報量は指数関数的に増えてゆく。
 たぶん30年後から見れば2012年だって牧歌的なのだろう。
 バック・トゥ・ザ・フューチャーから26年。1989年に製作されたPart2では30年後の2015年へ飛ぶが、その30年後は目前だ。未来が現代になった今、自分への禁断を解いてPart2とPart3を見てみようと思う。

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 時代が移りゆき世の中が変わっていくのを見るのは面白い。面白すぎて死んでいる場合ではない。長生きしていつまでも見ていなければ。