残照の美を悼んでばかり

 「残照の美を悼んでばかりいるわけに」(銀河英雄伝説)いかないので,みな敬愛するひとの喪から立ち上がり背筋を伸ばす。実際忙しいということは救われることであると思う。悲しみに耐えるという一点においては。
 時の流れは記憶を風化させるが,死に帰する悲しみだけは流れにさらされてもなかなか風化しない。生きとし生けるものに代替は存在しないし,心の一角に空いた穴は永遠に埋まらない。だから悲しみと共存し上手に付き合い自分らしく馴染む方法を確立させる必要がある。時の流れはその道しるべになり,忙しさは悲しみと共存できるまでの仮のメソッド。

 残照に苦しめられた日々の末,すこしは馴染んだことにある日気付き,一陣の風が吹き去ったような感覚をおぼえる。心の穴が温かな記憶の証しであったことに気付く。