夢の中で夢の中で

定期的に彼女の夢をみる。
最後になるだろうと思いながら会いに行った日からもう6年が過ぎたのに。

時も場所も大きく離れていた。
年は35歳離れていたし、住んでいる場所も1000km離れていた。
彼女は軍需工場で働き敵国の言語だと英語を学べなかった世代。
戦争で婚約者も失った。
なのに独学で英語もパソコンもこなし、wwwで私と知り合った。

ネットだろうとリアルだろうと関係ない。そこにあるのは人間関係。
惹かれる相手には惹かれる。
袖がふれあっても縁が無い人は気にならない。ネットでも同じこと。
まだ個人でウェブサイトを作っている人が少なかった2002年、
私は彼女と必然のように知り合った。
友情をはぐくむことに年の差なんて関係なかった。
ネットがあれば、住んでいる場所が遠くても関係なかった。
彼女からのメールは私に世界を与えてくれたし、
彼女は私を大切な対等な友人として扱ってくれていた。
彼女は既に老齢期だったけれど、
せめてあと20年メール交換させて下さいと、私はせつないほど天に祈った。


彼女の意識が遠くへ行ってしまうのを
1000km離れたネットの向こうに感じた最後の一年。
何も、何もできなかった。
ついに連絡がとだえ、私はいても立ってもいられず、
ただ必死で手紙を書き電話を鳴らし続けた。
最後に彼女の妹さんが連絡をくれた。

傍目には私はネットで知り合っただけの存在。
ちょっと数年間メール交換しただけだと思われるだろう。
だがどんなリアルな友人とも築けなかった、心の奥深い部分での交流だった。
彼女の存在は私が死ぬまでずっと、私の中に確実にあり続けるだろう。
私は今日も今も彼女の存在を恋しく思い、彼女の不在をさびしく思う。
彼女が去った街に、今になって私が住んでいるとは何という寂しい偶然だろうか。
街角に残る彼女の残照をさがしたくて、私は毎日カメラを持ち歩く。


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