星霜

 心置きなく愛していられる場所で暮らす安心に憧れながら、私の人生は引っ越しばかり。18歳で両親の家を出て以降、東海・近畿・九州・関東と移り住んだ。別に転勤族でもないのに何故か動き回ることになってしまう。
 どこかに住めば、そこを愛さずにいられない。いつも眺めて四季を感じる道端の草木、毎日通る道路の舗装のほころびから顔を出すタンポポや、毎年同じ時期にベランダに現れる昆虫や、散歩道の店先の飾りつけまで、どうしても愛してしまう。引っ越す時に辛いから愛さなければいいのに、不可抗力で愛してしまう。

 去って幾許かの年月を重ねたのち、かつて住んだ場所を訪れることがある。私はそんな機会があまり好きではない。自分が知らない年月を幾つも見送って変わってしまった景色を見るのは、たまらなく寂しいから。
 時は流れ人は去る。それはどうしようもないことで、みんなその中で生きているのに、どうしてもう少しそれを自然に受け入れることができないのだろう。どうしてこんなに寂しい想いをしてまで、どうにもならない移り変わりを注視してしまうのだろう。


 たくさんの時の向こうの街でちりぢりになった自分の分身たちが、各々の居場所で寂しがっている気がして、たまにいたたまれなくなって空をあおぐ。

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