冬のガサガサ

 数えるのも面倒なくらい引っ越してきたし、これから死ぬまでの間に少なくとも2回くらいは引っ越すだろうと思うが、おそらく最期の地が自分の慣れ親しんだ地方都市になることはないだろうと思っている。
 別に東京が嫌いではないし、私は東京と相性良く楽しんでいるように見えるだろう。東京は素敵なところだ。東京に否定的な人にはそう言って、私はどこまでも東京を弁護するだろうと思う。
 だが、この東京の山手線の内側という世界屈指の大都会のマンションにおいて、私は秋冬のガサガサを聞くことができず、非常に寂しい想いをしている。こればかりは東京都心で得られないものらしい。


 ベランダで洗濯物を干しながら渡ってきたばかりのシロハラが落ち葉をかき分けながら地面を漁る音を聞き、まだ暑いながらも冬が近づいたことを感じ取る10月の晴れた朝。これから半年間、彼らのガサガサを聞いて過ごせるのかと思って心温まったものだった。私は冬鳥の中でも殊更にシロハラを愛していて、東京へ行かねばならないとわかったとき、シロハラに会えなくなることを心配した。案の定だった。東京都心は緑が多いし野鳥もいるが、種類が限られていることは否めない。
 せめて彼らのガサガサを聞きながら秋冬を過ごせるのなら、郷愁も癒されように。
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